中古マンションを買って、間取りを変えて住みたい。そう思って物件を見ていると、こういう疑問が出てきます。
「この壁、取れるんやろか」「キッチン、こっち側に動かせるんかな」
この質問をされたら、最初に答えるのは、だいたいこれです。

結構変えられるけど、何でも自由にできるわけではない
先に結論を書きます。変えられるかどうかは、「そのマンションの構造」と「そのマンションの管理規約」で決まります。部屋を見た感じでは決まりません。
この記事では、何が変えられて、何が変えられないのか。そして買う前に何を見ておけばいいかを書きます。
僕は中古マンションを買い取って、中を全部解体して、直して売っています。壁も天井も床もはがした状態を、何度も見てきました。ここではその話と、法律や管理規約に書かれていることを、分けて書きます。出どころは、その都度つけています。

この記事で覚えて帰ってほしいのは2つ。①部屋の中でも、全部が自分のものではありません。②変えられる範囲は、構造と管理規約で決まります。図面と現場の両方を見ないと分かりません。
1. まず見るのは、構造と管理規約
「どこまで変えられますか」と聞かれたとき、僕が最初に確かめるのは、そのマンションの構造と管理規約です。
壁を抜けるか。床をどう触れるか。水回りをどこまで動かせるか。窓や玄関ドアを触れるか。このへんはマンションごとに条件が違います。
だから、最初から「できます」とは言いません。図面、現場、管理規約を見てから判断します。
逆にいうと、この3つを見れば、だいたいの範囲は分かります。順番に書きます。
2. 「部屋の中やから全部自分のもん」ではない
いちばん先に知っておいてほしいのが、これです。

「部屋の中やから全部自分のもん」ではないっていうのは、中古マンションでは結構大事やと思う
マンションは、自分のものであるそもそも「専有部分」って何?マンションで、自分のものである部分です。住戸の中でも、玄関ドアや窓は専有部分に含まれないことがほとんどです。もっと詳しく →と、みんなのものであるそもそも「共用部」って何?マンションの中で、住んでいる人みんなで使う場所。エントランス、廊下、エレベーター、ゴミ置き場、駐輪場などです。もっと詳しく →に分かれています。
この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物…をいう。
(出どころ:建物の区分所有等に関する法律 第2条)
では、部屋の中はどこまでが自分のものなのか。国が示しているマンション標準管理規約には、こう書かれています。
一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
(出どころ:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第7条)
つまり、玄関ドアで自分のものは「鍵」と「内側の塗装」だけ。窓は、枠もガラスも自分のものではありません。ドアまるごと自分のものやと思っていたのに、ふたを開けたら鍵と塗装。だいぶ心細い持ち分です。
だから玄関ドアや窓を変えたいという希望は、勝手には通りません。ただし「できない」と決まっているわけでもありません。共用部分の改良工事として、そもそも「管理組合」って何?マンションの部屋の持ち主みんなで作る集まり。建物の手入れや、修繕積立金の使い方を決めます。もっと詳しく →の承認を受けてできる場合があります。(内窓を付ける工事も、この形になります。)
⚠ これは標準管理規約の書き方です。実際の線引きは、そのマンションの管理規約で決まります。必ず自分の物件の規約を見てください。
3. 構造は、そもそも触れない

断ることでいちばん多いのが、ここです。
「この壁を全部取って、広いLDKにしたい」「そもそも「梁」って何?天井の近くを横に通っている、建物を支える太い骨組み。こわせません。見た目では壁と区別がつかんこともあるので、図面で確かめます。もっと詳しく →や柱を消したい」。見た目ではただの壁に見えても、構造上必要な壁だったら取れません。
これは、好みや方針の話ではありません。決まりとして書かれています。
区分所有者は、区分所有法第6条第1項の規定により、専有部分の増築又は建物の主要構造部に影響を及ぼす行為を実施することはできない。
(出どころ:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第17条関係コメント①)
壁式構造と、ラーメン構造
抜けるか抜けないかを考えるとき、まず効いてくるのが建物の構造です。マンションには、大きく2つあります。
ラーメン構造は、柱と梁で建物を支えています。部屋の隅に太い柱が出ていたり、天井に梁が通っていたりするのがこの形です。柱と梁で支えているので、間仕切り壁は比較的撤去できることが多いです。
壁式構造は、柱や梁ではなく壁そのもので建物を支えています。こちらは壁が構造体になっていることがあるので、簡単には抜けません。
どれくらい「壁ありき」かというと、国の告示で壁の量まで決められています。
各階の張り間方向及びけた行方向に配置する耐力壁の長さの合計を、それぞれの方向につき、その階の床面積で除した数値(以下「壁量」という。)は、次の表…に掲げる数値以上としなければならない。
(出どころ:国土交通省告示第1026号「壁式鉄筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準を定める件」平成13年6月12日)
壁の長さの合計が「これ以上」と決められている、ということです。勝手に抜くと、その量を下回ることがあります。
建物を支えている壁は、建築基準法でも別あつかい
建物を支えている壁は、建築基準法の世界では「構造耐力上主要な部分」と呼ばれます。
三 構造耐力上主要な部分 基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台…で、建築物の自重若しくは積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるものをいう。
(出どころ:建築基準法施行令 第1条第3号)
建築基準法でも、建物を支える壁と、ただ仕切るだけの壁は別あつかいです。支えている壁は、地震の力を受け持っています。
さきほどの管理規約に出てきた「主要構造部」も、建築基準法の言葉です。こちらにも壁が入っていて、「構造上重要でない間仕切壁」は、そこから外されています(建築基準法 第2条第5号)。
まとめると、ただ部屋を仕切っているだけの壁と、建物を支えている壁は、まったく別のもの。管理規約では「専有部分の増築又は建物の主要構造部に影響を及ぼす行為を実施することはできない」と書かれています。
だから僕は、こう決めています。

基本的に、コンクリートの耐力壁は絶対に抜かない
どの壁がそもそも「耐力壁」って何?建物を支えている壁です。地震の力も受け持っています。見た目では分からず、間取りを変えるときに取り除けない壁の代表です。もっと詳しく →で、どの壁が間仕切りなのか。これは見た目では分かりません。図面と現場の両方を見て決めます。次にその話を書きます。
4. 壁を抜けるかどうか、どう見分けるか
僕がやっている見分け方を、そのまま書きます。
まず図面を見ます。構造図があればかなり参考になります。壁式構造かラーメン構造かでも、考え方が変わります。
ただ、図面だけで決めることはしません。現場で壁の厚みを見たり、叩いた感触を見たり、必要なら一部開けて中を確認します。最終的には図面と現場の両方を見ます。

「この壁、石膏ボードっぽいから取れるやろ」だけで決めるのは危ないと思う
内覧のときに自分で叩いてみるのは、悪いことではありません。ただしそれで決めないでください。音が軽くても、その裏に構造の壁があることはあります。
5. 水回りは「排水」で決まる
キッチンを対面にしたい。風呂を広げたい。トイレの位置を変えたい。水回りは、どこでも好きな場所に動かせるわけではありません。
いちばん大きいのは排水です。

これは、うちが解体したあとの部屋です。壁も床もはがして、コンクリートがむき出しになっています。床の上を這っている太いグレーの管が、排水管です。青が給水、赤が給湯。
よく見ると、排水管は床から少し浮かせて、金物で支えてあります。これは水が流れるように、傾きをつけているからです。
キッチン、風呂、トイレは、排水管に向かって水が流れるように、勾配を取らないといけません。水は低いほうにしか流れないからです。
だから、排水管が集まっているそもそも「パイプスペース」って何?マンションの中を、上下の階に向かって配管が通っている場所です。図面ではPSと書かれます。水回りをどこまで動かせるかは、この位置に左右されます。もっと詳しく →から遠くに動かせば動かすほど、床下に高さが必要になったり、そもそも勾配が取れないこともあります。
給水や給湯は比較的動かしやすいです。排水のほうが制限は大きいと思っておいてください。
⚠ もうひとつ。配管も、全部が自分のものではありません。パイプスペースの中を上下に通っている縦の管は、みんなで使う管です。住戸の中を横に走っている枝の管をどう扱うかは、マンションの管理規約によって分かれます。自分の物件がどうなっているかは、規約で確かめてください。
実際に見るのは、床下の高さ、パイプスペースの位置、梁、スラブ(コンクリートの床)、既存の配管ルート。このへんを見て、どこまで現実的に動かせるかを決めます。
6. 管理規約で、よく引っかかるところ
構造がクリアでも、もうひとつ関門があります。そのマンションの決まりです。
① 床の遮音
よく見るのが床の遮音性能です。フローリングにする場合、L-45 とか LL-45 とか、マンションごとに基準が決まっていることがあります。
⚠ ここは勘違いしやすいところです。この数字は、全国一律の法律の決まりではありません。国の資料にはこう書かれています。
床材を張替える工事 … 新築時と同等以上の遮音性能を確認する
(例)…管理組合が決定した場合:フローリング等の承認条件(遮音等級○L○○以上等)を示す
(出どころ:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」別添2「区分所有者が行う工事に対する制限の考え方」)
つまりそのマンションが決める話です。カーペットの物件をフローリングにしたいときは、特に先に確かめてください。
② 工事の届出と、工事できる時間
共用部分や他の住戸に影響する工事は、あらかじめ管理組合に申請して、承認を受ける必要があります。
標準管理規約では、フローリングや間取りの変更も、その例に挙がっています。
第17条 …修繕、模様替え…であって共用部分又は他の専有部分に影響を与えるおそれのあるものを行おうとするときは、あらかじめ、理事長にその旨を申請し、書面による承認を受けなければならない。
2 …設計図、仕様書及び工程表を添付した申請書を理事長に提出しなければならない。
3 理事長は、…理事会の決議により、その承認又は不承認を決定しなければならない。
(出どころ:同 第17条。コメント②に「床のフローリング、ユニットバスの設置…間取りの変更等」が具体例として挙げられています)
さらに、承認が要らない工事でも、届出が要ることがあります。工事業者の出入り、資材の搬入、騒音や振動について、管理組合が先に知っておく必要があるからです(同 第17条第7項)。
実際の現場では、着工の何日前までに申請が必要とか、工事できる曜日・時間帯が決まっているとか、土日祝は工事禁止とか。エレベーターや共用廊下の養生も、管理会社や管理組合から細かく指定されることがあります。

⚠ 工事は、部屋の中だけ考えたらいいものではありません。マンション全体のルールの中でやることになります。ここを先に確認していないと、工事の日程そのものがズレることもあります。
7. 解体して、初めて分かることもある
ここは、正直に書いておきます。
図面では分からなかった梁が出てきたり、想定していた位置と違うところに配管が通っていたり、壁を開けたら中に設備配管があったり。古いマンションだと、図面どおりになっていないこともあります。過去のリフォームで配管が変わっていることもあります。

だからリノベって、解体して初めて本当の状態が分かる部分はどうしてもある
解体前にできるだけ調べます。それでも、「全部100%事前に分かる」とは思わないほうがいいと思っています。
だからこそ、どうしても譲れない希望があるなら、それは先に確かめておくほうが、あとで困る可能性は減ります。「この壁を抜いて広いLDKにする」が条件なら、そこだけは買う前に見てもらってください。
8. 内覧のときに、見ておいてほしいところ
ここまでを踏まえて、リノベ前提で物件を見るときに見ておいてほしいのは、あとから変えにくいところです。
- 柱、梁
- パイプスペースの位置
- 窓、玄関ドア
- 天井の高さ
- 床の段差
- 水回りの位置
内装は後からどうにでもできることが多いです。でも、こういう部分は簡単には変えられません。
それと、自分がやりたい間取りを、なんとなく頭に置いた状態で見た方がいいと思います。「ここをLDKにしたい」「キッチンをこっち向きにしたい」「子ども部屋を2つ取りたい」。そう考えながら見ると、その物件でできそうかどうかが見えてきます。

きれいか汚いかより、自分がやりたいリノベができる箱かどうかを見る方が大事
内覧そのもので見るところは、別の記事に書きました。
まとめ
- 結構変えられます。でも、何でも自由にできるわけではありません。決まるのは「構造」と「管理規約」です
- 部屋の中でも、全部が自分のものではありません。玄関ドアは錠と内側の塗装だけ、窓は枠もガラスも共用部分、というのが標準管理規約の書き方です
- 構造に影響する工事はできません。壁式構造は壁の量まで国の告示で決められています
- 水回りは排水で決まります。パイプスペースから遠いほど、動かしにくくなります
- 標準管理規約では、共用部分や他の住戸に影響する工事は、管理組合の承認が要ります(フローリングや間取りの変更も、その例に挙がっています)。床の遮音の数字は、そのマンションが決める話です
次にやること

リノベは、買ってから考えるんじゃなくて、買う前から考える

やりたい間取りの希望があるなら、買う前に図面を見てもらってください。できれば現地も一緒に見てもらうのがいちばん確実です。買ってから「この壁取られへんかった」と分かると、もう遅いからです。


